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  • 病理革命

PCRと温泉とノーベル賞(No.6)

ブログNo.1-No.5までが超真面目な硬い話ばかりになってしまいましたので、少しほっこりするお話です。コロナ対策に不可欠な「PCR検査」という言葉は、広く皆さんに知られました。このPCR法を発明したのはアメリカ人でバイオテクノロジー企業に勤めるキャリー・マリス氏(1944-2019年)ですが、「ポリメラーゼ連鎖反応法の発明」で1993年にノーベル化学賞を受賞しました。このPCR検査が「温泉」と関係があるのはご存じでしょうか。「温泉」といっても、温泉などの高温の環境でも生きている菌(好熱菌,こうねつきん)が関係しているということです。

PCR検査の過程では、60度以上の高熱で酵素反応をおこしDNAやRNAの転写や複製を行います。通常は「バイ菌は高温に熱すると死滅するので熱消毒が有効」など言われますが、55度以上でも生きられる微生物「好熱菌」という細菌や藻類がいます。80度以上でも生きられる「超好熱菌」もいるのです。1960年代には陸上の温泉(イエローストーン国立公園、日本では箱根、伊豆など)で80度以上で生育できる微生物が発見されました。ほとんどの生物が死滅してしまう高温の中で生きられるということは、微生物の細胞の中でDNAやRNAを複製できる酵素が存在しているということです。この好熱菌の酵素を利用して発明されたのが「PCR法」なのです。




この上の図の、向かい合ったT,AやG,Cの間を切って複製するためには、高温をかけるので高温に耐えられる酵素が必要なわけです。

私がこのことを知ったのが約25年くらい前の若い頃、本当に温泉に藻とか苔みたいな生物がいるのかな、と思いながら関東地方の温泉旅行に行きました。源泉かけ流し、熱湯に近い温度、硫黄の強い温泉が流れるその壁に、ありました!緑色の苔みたいな塊です。源泉だから熱くて触れないけど見つけました。「あっ!いるっ!生きてるんだ!」「温泉で勉強しちゃったよ!」という感じでした。


ちなみに、火山の高温土壌の中で微生物が作り出しているのがメタンガスです。高温で生きられるのに、地上で酸素にあたると死んでしまうというメタン菌の研究は難しかったようです。




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